新撰組見参

…………将軍上洛(じょうらく)の日も近いと聞く新しい年の二月には、彼は京都行きの新撰組の一隊をこの街道に迎えた。一番隊から七番隊までの列をつくった人たちが雪の道を踏んで馬籠に着いた。いずれも江戸の方で浪士の募集に応じ、尽忠報国をまっこうに振りかざし、京都の市中を騒がす攘夷党の志士浪人に対抗して、幕府のために粉骨砕身しようという剣客ぞろいだ。一道の達人、諸国の脱藩者、それから無頼な放浪者なぞから成る二百四十人からの群れの腕が馬籠の問屋場の前で鳴った。


 島崎藤村 『夜明け前 第一部』 第六章 五

 舞台となる木曾街道筋は東西の交通の要である。諸大名が東へ向かえば、幕府の要人が西へ急ぐ。そういう場所である。馬篭宿の本陣庄屋問屋を兼ねる主人公・半蔵は国学を学んだ攘夷派だが、政治的には敵対関係にある者たちが、目の前を通り過ぎるときもある。
 新撰組が登場するこの場面、上に引用したわずか数行しか書かれていないのだが、妙に心に残る文章である。実にかっこいいのだ。「腕が鳴る」 という言い回しをこういう風に用いるところが素晴らしいと感じる。
 新撰組といえば幕府側、賊軍である。今でこそ彼らは歴史小説のヒーローとされていることが多いが、昔はそうではなかったはずだ。執筆当時の昭和初期には、どんな風に評価されていたのだろうか。気になる。