NHKドラマ 「母恋ひの記」

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 谷崎潤一郎の小説 『少将滋幹の母』 をドラマ化した 《NHK ドラマ 時代劇スペシャル「母恋ひの記」》 を見た。
 原作は昭和24〜25年に新聞連載された中編小説で、谷崎にとっては戦後の自由奔放な時期の作品にあたり、カテゴリとしては平安時代を舞台にした “母恋もの” に位置づけられるものである。小説の前半は、50歳年上の夫と結婚した美女・北の方と、彼女を我が物にしようと画策する男たちをめぐるほとんどドタバタ喜劇のような筋書き。そして、後半は雰囲気ががらりと変わり、北の方の嫡男・滋幹 (しげもと) が幼い頃に生き別れた母を慕って生き、数十年後に憧れの母と再会するまでの物語となっている。

 ドラマ 「母恋ひの記」 はストーリーを大胆に脚色。原作の前半と後半を、最初からミックスさせて、母子の愛情を強調している。喜劇的な要素を排したため、出演する男たちのほぼ全員の目つきがキチガイになっているのである。また、滋幹の異父弟・敦忠との、母の寵愛をめぐる確執、滋幹の妻・右近の悪妻ぶり(彼女は敦忠の元愛人である)に焦点を当て、原作にないこれらのエピソードを通じて、滋幹の苦悩と狂気を、さらに強く、このドラマは描き出している。
 なお、結末は原作と全く違っているのだが、これはこれでアリじゃないかと思う。

 以下、出演者について。

  • 黒木瞳 20代から60代までの役柄を見事に美しく演じている。あれほど美人の母があんな目にあったら、息子はトラウマになるよねえ。
  • 劇団ひとり 前半はぼーっとした青年なんだけど、後半どんどん狂っていくところがすごい。彼はこういうシリアスな役が似合う演技派俳優になってきたようだ。滋幹の幼年時代を演じた子役も好演。
  • 大滝秀治 80歳を過ぎて、冒頭から黒木瞳のおっぱい揉みまくり。(NHKの番組なのに!) しかし、その後、上司の長塚京三に妻を奪われてからの悲嘆と絶望。妻の残した衣の残り香を嗅ぎ、泣きながら衣を口に入れて頬張るあたりの演技が素晴らしい。
  • 長塚京三 この人が悪役を演じるのは珍しいかも。怪しげな子分を連れて、北の方を奪うときの禍々しさに注目。
  • 内山理名 右近はドラマ版オリジナル設定。悪妻なんだけど、おそらく最も現実的で現代的な女性の姿かもしれない。

少将滋幹の母 (新潮文庫)

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