志賀直哉 『暗夜行路』 感想まとめ

 感想記事を読みなおしてみると、部分ごとに見事に感想がばらばらである。無理やりまとめると、不安定な主人公、不安定な文章、不安定な作者を表した小説ということになるだろうか。
 読んでいるときは結構面白いと思ったのだけれど、読み終わって妙なもやもやが残る作品ではあった。


暗夜行路 (新潮文庫)

暗夜行路 (新潮文庫)

盗聴

 救急車に連れ去られた妻を追う 《男》。だが、彼が行う会話は全て盗聴器でカセット・テープに録音されている。

(以下の会話は一本目のテープの裏面からの抜粋である。再生機カウンター目盛の表示は729。時刻は事件発生当日の午後一時二十分頃。場所は男の妻が収容されたとみなされる病院の副院長室。……)


 安部公房 『密会』

 《男》 は自分の声が吹きこまれたテープを再生しながら、ノートに手記を綴っている。その手記が、『密会』 の本編を構成しているのだ。手記に彼自身が登場するときは 《男》、語り手として自分のことを書くときは 《ぼく》 が用いられているが、同一人物なのである。
 追う者が最初から追われる存在である、という複雑な設定なのだが、30年前に読んだときの記憶があいまいで、このあたりすっかり忘れていた。病院内に潜入してからの悪夢のような展開の印象が強すぎるからかもしれない。