Herbie Hancock / V.S.O.P.

ニューポートの追想

ニューポートの追想

  • 1976年6月29日、ニューポート・ジャズ・フェスティヴァル(ニューヨーク)におけるライヴ録音。(1977年発売。)
  • Disc1 …… Freddie Hubbard (tp), Wayne Shorter (ts), Herbie Hancock (el-p), Ron Carter (b), Tony Williams
  • 1976年、ニューポート・ジャズ・フェスティヴァルにおいて開催された "Retrospective of The Music Of Herbie Hancock" というライヴ・イベントを録音・収録した2枚組ライヴ・アルバム。LP レコードの A〜B 面は、60年代のマイルス・デイヴィスクインテットのメンバー(ただしマイルスは引退期間中のためフレディ・ハバードが参加)による演奏が収録された。タイトルの "V.S.O.P." とは Very Special Onetime Performance の略で、このときのクインテットの名称となり、このグループは(その名に反して)何度も再結成されて、1977年および1977年にはツアーを実施。本作とは別に4枚ものアルバムを発表した。
  • LP の C 面には、1970年代初頭のハービー・ハンコックセクステットの演奏が、D 面には1976年当時ハンコックが率いていたファンク・グループ、ヘッドハンターズの演奏がそれぞれ収録されているが、本記事では省略する。
  • Disc1 について。(1) はピアノ・ソロ曲。ここでハービーが弾いているのは、ヤマハ CP-80*1 というエレクトリック・ピアノである。
  • (2) はハンコック作曲の「処女航海」。オリジナルは1965年の同名のアルバムから。オリジナルではジョージ・コールマンがテナーを吹いていたが、ここではウェイン・ショーターが参加し、13分におよぶ長時間演奏になっている。
  • (3) "Nefertiti" はマイルス時代のレパートリーで、ショーター作曲。もともとトランペットとテナーがユニゾンでテーマを繰り返すだけの曲だったのだが、マイルス抜きでショーターが無理やりソロを吹いている感じで、あまりかっこよくはない。
  • (4) はハンコック作曲の "Eye Of The Hurricane"。前述の『処女航海』に収録されていた曲で、18分を超える長尺演奏。冒頭、ハービーがメンバー紹介しながら、演奏者が一人ずつ増えていくところが楽しい。
  • 1970年代はフュージョン、エレクトリック全盛期で、アコースティック楽器を中心にしたジャズはアメリカではまったく売れなかった時代である。(アメリカのジャズ・ミュージシャンのほとんどはフュージョンに転向するか、またはヨーロッパへ移住していた。)そんな折に彼らのようなグループが生まれ、《レトロスペクティヴ》 と名付けられながらも、最新のモダン・ジャズを創り出したことは一大事件だったのだ。演奏は4ビートを中心にした60年代風ジャズだが、アドリブ・ソロはフリー・ジャズフュージョンなどを包括したフレーズが飛び出す新しいものだったのである。
  • このような充実した演奏内容とは別に、当時のジャズ・シーンを反映したもう一つのトピックは、巨大なスタジアムやコンサートホールでの演奏を想定した楽器のセッティングおよび録音方法である。ピックアップをつけて電気楽器のような音を出すアコースティック・ベース、ワイヤレス・マイクつきの管楽器など、60年代にはなかった技術が登場し、巨大な PA システムを通してライヴを楽しむというやりかたが一般化していったのもこの時代のことだ。
  • さて、いろいろ述べてきたけれども、今聴くと V.S.O.P. クインテットの音はさすがに古い。しかもワンパターンだ。トニー・ウィリアムスのシンバルの音は高域がカットされているのか、つぶれて聞こえる(これは本アルバムに限らない)。結成第一弾の本アルバムに関してはお祭り騒ぎ的な楽しさがあふれているけれども、後続の諸作品については今や聴くに堪えないと思うのである。

*1:1970年代後半に流行した楽器で、サザンオールスターズ八神純子が使用していたので有名。