イエス/トーマト

  • 1978年発表。原題 "Tormato"。
  • メンバーは前作『究極』と同じくジョン・アンダーソン(vo)、スティーヴ・ハウ(g)、リック・ウェイクマン(key)、クリス・スクワイア(b)、アラン・ホワイト(ds)。
  • 前作と同じメンバーだが、全面的にイメージチェンジ。2〜7分という短い曲ばかりになり、半分くらいの曲は安手のポップ・ソングになってしまった。駄作である。
  • 一番ひどいのが「クジラに愛を」(原題 "Don't Kill The Whale"、上の動画参照)。イントロのダサいギターだけで、もうがっかりしてしまうのだが、曲、歌詞、アレンジ、ミキシングと全部ダメ。ヘッドホンで聴くとわかるが、モノラル・ミックスの上にステレオでシンセをオーバーダビングしているようだ。
  • あと、「UFOの到来」(原題 "Arriving UFO")という曲がある。1977年に公開された映画 『未知との遭遇』、『スターウォーズ』の影響で、世界中が UFO ブームだったのである。エレクトリック・ライト・オーケストラカーペンターズピンクレディーに至るまで UFO ソングを出していたのだ。しかし、イエスのコレが一番ダサい。リック・ウェイクマンのポリムーグ(シンセサイザー)がチャラチャラしているだけではないか。これなら、ピンクレディーのほうが断然上である。
  • CD の解説を見ると、イエスのみならずプログレッシヴ・ロックの面々がポップ化した背景として、パンク・ムーヴメントの影響ということが書かれている。だが、当時リアルタイムでロックを聴いていた僕からすると、それは順序が違う。プログレ・バンドのマンネリ化、解散や主要メンバーの脱退のほうが先にあったのだ。(イエスはわりと長く保持したほうである。)キング・クリムゾンの解散、EL&P の劣化、ジェネシスのヴォーカル交代などは、いずれもパンク以前の出来事なのである。
  • 1970年代前半、プログレの最盛期にはイエスのアルバムはヒットチャートの上位常連であった。これは当時、彼らの音楽をプログレのマニアだけでなく、もっと幅広いリスナー(日本では洋楽ファンはみんな聴いていたといって良いほど)が聴いていたことを意味する。ところが、70年代後半になると、ヘヴィメタルプログレフュージョン、パンク、ニューウェーヴ、テクノ等々、さまざまなジャンルが発生し、それぞれ客層が分化していく。「トーマト」は、そのような過渡期の迷いを感じさせる作品群の一つなのである。(そういえば、レッド・ツェッペリンの "In Through The Out Door" もこんな感じのアルバムだった。)


Tormato

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