怪奇ほか

短夜や踏切の音長々と
歓声のテレビの裏に横たはる
夏休みいつしか知らぬ子の混じる
ロキソニン六十ミリや蝉時雨
炎昼や眼鏡ばかりが溶け残る
水溜りに棲む人影や夕立止む
日本語の通じぬ店で夏定食
ベランダのシャツの吸ひたる夕立かな
轢死体拾ひ集めて蝉時雨
首吊りて蛆の柱となりにけり
夜涼みや両棲類の肌となる
大いなる句稿を遺し月見草
冷凍の遺体の汗を見つめをり
実存に影は存在するのかね
ダイヤル式電話を知らぬ子よ真夏
夏の夜や最期に見えし対向車



怖い俳句 (幻冬舎新書)

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