ホトトギス

 先週末あたりから近所の雑木林でホトトギスが啼き始めた。
 ホトトギスなどというと何か風流なものを想像するかもしれないが、とんでもない。鳴き声は上の動画で聴くことができるけれども、このようなヒステリックで絶叫調の囀りが午前3時頃から約1時間にわたって続くのである。

 伝統的には夏の到来を告げる風流な風物がホトトギスであったが、明治になって肺病が急増すると、ホトトギスは肺病の代名詞のようになる。肺病で血を吐く、すなわち喀血するようすが、ホトトギスの鳴き方に重ねられたのだ。ホトトギスは赤い咽喉を見せて高く鳴くので、その鳴き方が啼いて血を吐くと形容されていた。その啼いて血を吐くホトトギスが、明治になって肺病の形容になったのである。


 正岡子規 言葉と生きる』 第二章 学生時代 子規という名前――今より十年の生命 坪内稔典岩波新書

 子規と書いて 《ほととぎす》 と読む。俳人子規の名はこうして生まれたのであった。


ほととぎす午前三時に鳴き初めり
郭公時を告ぐるや夜明け前
夜半過ぎて吐くこともあり時鳥
全山に一羽で足るや時鳥
鳴かぬならそのほうが良しほととぎす
明け方に研ぐ包丁や時鳥


 しばらく眠れぬ夜が続きそうである。


正岡子規 言葉と生きる (岩波新書)

正岡子規 言葉と生きる (岩波新書)