初めて詠んだ俳句

 初めて詠んだ俳句って何だっけ? ……というようなことを考えていて、ようやく思い出したのが以下の一句。

吊尾根の雪より白き小梨かな

 1986年6月、友人と上高地を旅行したときの句である。
 上高地の有名な河童橋から北アルプスを眺めると、左に奥穂高岳、右に前穂高岳が見え、その間のカーブを吊尾根と呼ぶ。小梨とはバラ科の植物*1で、上高地では6月に咲く花だ。河童橋の上流に「小梨平」と呼ばれる場所(キャンプ場になっている)があり、時期になるとたくさん咲くのだが、オフシーズンなので花を見たことのある方は少ないかもしれない。
 この句については二つ思い出がある。
 一つ。これは松本行の電車の中で詠んだ句である。実際に風景を見て作ったわけではないのだ。上高地にはそれ以前に何度か訪れたことがあったが、6月の梅雨時に行ったことはなく、ほとんど想像ででっち上げた一句なのである。実際の風景は、左右の高峰は雪を残していたものの、吊尾根には思ったほど残雪がなく、黒っぽい山肌が露出していたのであった。
 もう一つ。当時の僕は五七五を紙に書き残していなかった。たまたま同行の友人が拙句を気に入ってしまい、彼が当時発行していたミニコミ誌に掲載したため、記憶に残っているのである。(たぶんほかにも詠んだはずだが、今考えると書き残しておけばよかった。)
 こんな風景が見たい。こんな写真が撮りたい。――というのが、1980〜90年代当時の僕の句作だったのだ。今でもそんな風に考えることがあるけれども、今だったらやっぱり風景を見て感動してから詠むよなあ、と思う。
 いつか6月の上高地を再訪することがあったら、僕はどんな句を詠むだろうか。

*1:図鑑にはズミという名で掲載されている