ゼルキン/ブラームス 『ピアノ協奏曲第1番』

セルはピアニストのルドルフ・ゼルキンと音楽院時代の学友で、クリーブランド時代も何度か共演を行った。レコードでもブラームスの2曲のピアノ協奏曲の録音がある。しかし、1968年に行われたブラームスのピアノ協奏曲第1番のレコーディングでは意見が合わず、そのレコーディングが2人の最後の顔合わせとなってしまった。


 ジョージ・セル - Wikipedia

 へえ、そんなことがあったのか。1968年録音のピアノ協奏曲第1番というのは以下の CD に収録されているものである。

 CD を聴くかぎり、ジョージ・セル(1897-1970)とゼルキン(1903-1991)との間に仲違いがあったとは思えない息の合った演奏だと思うのだけど。セルが上の録音の2年後に亡くなったため、たまたま最後の共演になった、というのが実際の話なのではないだろうか。
 それにしても激しい曲である。特に第1楽章のフォルテッシモは、音が割れる寸前の強さで鳴り響く。ピアノのゼルキンもチェロ・ソナタでリラックスして弾いていたのとは別人のようだ。何かが乗り移っているのではないかと思うほどの強烈な音楽である。また、第2楽章アダージオの美しさも格別だ。


 ゼルキン盤の動画が見つからなかったので、ルービンシュタインの映像を見てみよう。ベルナルド・ハイティンク指揮、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の演奏である。

 1973年の映像で、ルービンシュタインは当時85歳。ピアノが始まるまでの3分40秒はひたすら辛抱である。指揮者もオケ・メンバーも苦渋の表情で、眉に縦じわを寄せている。だが、ピアノの音が鳴ると途端に空気が変わっていくのがわかる。ある意味、わかりやすい演奏ではある。


 じいさんの演奏ばかり取り上げているようだが、ピアノ協奏曲第1番はブラームスが25歳のときに初演された作品である。彼が初めて挑戦した本格的な管弦楽曲であり、かなり力んでいる感じがする。(ティンパニ使いすぎである。)40代後半に書かれた同第2番とは対照的な作品だと思う。