ベーム/ブラームス 『交響曲第1番』

 ブラームスと同時代の指揮者ハンス・フォン・ビューローが、ブラームス交響曲第1番のことを 《第10》 と呼んだ、という逸話が残されている。ベートーヴェンの第九の後継という意味なのだが、たいていの CD の解説にはこの話が書かれている。確かにこの曲はベートーヴェンの影響を受けている。第九にちょっと似ている箇所もある。だが、ブラームスが生まれたのは1833年1827年ベートーヴェンが死んだ後のことだ。それに第九の初演(1824年)から、ブラームスの第1番初演(1876年)までは50年以上も経っている。《ベートーヴェンの後継者》 というのは名誉ある呼称には違いないが、いくらなんでも時代錯誤ではないか。当時はそれで良かったのかもしれないが、そういう逸話をいまだに語り続けて良いものなのだろうか。現代の中堅シンガーに向かって、「プレスリーの後継者」、「二十一世紀のジョン・レノン」 と呼んでしまうようなもので、微妙な評価なのである。むしろ、ビューローの発言は一種の皮肉であったと解釈するほうが妥当のような気がする。
 昔、あるラジオ番組で解説者が、「ベートーヴェンは一生をかけて第九を作り出しましたが、ブラームスは最初の交響曲の時点でこれだけの作品を書いたんですよね」 というような話をしていた。まさに、そのとおり。決してベートーヴェンを悪く言うつもりはないのだけれど、ブラームスは最初の交響曲の時点で、ベートーヴェンの領域に届いていた、さらにベートーヴェンを超えたのではないかとさえ思うのである。
 ブラームスはこの曲を完成させるのに20年を費やしたらしい。初演は彼が43歳の時のことであった。


 第1楽章は冒頭からいきなりクライマックスである。ティンパニがドンドン鳴っている。
 以下の映像は特撮番組 『電子戦隊デンジマン』 第1話より。オープニング主題歌に続いて、1:20 から始まる本編の BGM に第1楽章の冒頭が使用されている。

 巨大な宇宙要塞が地上に着陸する場面にぴったりの重厚な音楽ではないか。この音源はベーム指揮、VPO 盤(後述)ではないかと思うのだが、どうだろうか。


 次はオットー・クレンペラー指揮、フィルハーモニア管弦楽団の演奏。

 同じく第1楽章だが、これは重い。重厚というより鈍重に近い感じの演奏だが、これも悪くない。
 余談だが、クレンペラー(1885-1973) という指揮者は巨漢である。

 上は1929年に撮影された写真。左からワルタートスカニーニフィル・コリンズ エーリッヒ・クライバーカルロス・クライバーの父)、クレンペラーフルトヴェングラーフルトヴェングラーが約190センチだそうなので、クレンペラーは2メートルはあるだろう。この二人に比べたら、他の3人は 1hyde とちょっとくらいかもしれない。


 続いて第4楽章。サイモン・ラトル指揮、ベルリン・フィルの演奏。ベルリン・フィルYouTube 公式チャンネルの映像である。

 さわりの部分だけなのだが、これも良い。まあ、もじゃもじゃ頭に悪いヤツはいないからね。


ブラームス:交響曲第1番

ブラームス:交響曲第1番

 さて、僕の愛聴盤は前述のカール・ベーム指揮、ウィーン・フィル盤。重厚長大とか質実剛健とか、強そうな言葉が浮かんでくるのだが、決してマッチョではなく、優しさとしなやかさを兼ね備えた演奏であり、何より美しい。