東京スカイツリーの消滅

 オフィスビルの最上階にある会議室の窓から東京スカイツリーが見えることに気づいたのは、いつ頃だっただろうか。
 初めてその巨大な建造物を見たとき、ある日突然そこに現れたように感じたものである。その会議室に行くのは月に二三回程度なのだが、ある種の植物のようにぐんぐん成長を続けるスカイツリーは目に入るたび大きくなって行った。
 「意外と近くにあるんですねえ」
 「そばに行ってみたいですね」
 そんな会話が交わされたのも、つい最近のことだ。


 ある日、スカイツリーが消えた。
 曇天の午後だった。天気は下り坂で夕方からは雨の予報だった。遠くの景色はかすんで見えなくなっていたが、周囲の他の建物はちゃんと見えているのに、巨大な塔だけが完全に姿を消してしまったのである。雲が低くかかっているとき、東京タワーや新宿の高層ビルなどの上部が見えなくなることはよく経験する。だが、この日のスカイツリーは根元から完全に消えていた。それでも、街を歩く人々は何事もなかったかのように道を急ぎ、日常を過ごしている。何とも不思議な光景だった。


 もちろん、これは目の錯覚である。
 湿度の高い日、霧が発生している日などは視界が悪くなり、遠くの景色が見えなくなる。周辺の建物を残してツリーだけが消えたわけではなく、ツリーは見た目よりもはるか遠くに位置していたのだ。近辺に高層建築物がないため、スケール感がわかずに実際よりも小さく、近くに建っているように見えていただけなのである。本物のスカイツリーは見た目よりもずっと巨大な建造物なのであった。
東京スカイツリー TOKYO SKYTREE
 建造中の東京スカイツリーの高さは現在349m。完成時の高さの半分をようやく超えたところである。天気の良い日に一度近くから見上げてみたいものだと思う。