アメリカの警官とドーナツの関係

 アメリカ合衆国の警官がドーナツを食べている場面というのは、一種のステレオタイプである。だが、その起源や由来については定かではない。
なぜ?アメリカの警官が、いつもドーナツを食べている理由 - NAVER まとめ
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アメリカ映画などでよく休憩中、または勤務中にドーナツを頬張る警官の見かけるが、これはアメリカの大手ドーナツチェーンであるダンキンドーナツが「制服とパトカーで来店した場合ドーナツを値引き、または無料」というサービスを始めた為である。警官が店の中にいることによって、強盗避けの意味を成しているためである。犯罪大国アメリカならではのサービスと言えよう。
http://dic.nicovideo.jp/a/%E3%83%89%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%83%84

 ダンキンドーナツが、制服警官のために「値引き、または無料」のサービスを行ったのは事実かもしれないが、ダンキンドーナツの創業は1950年であり、同社は戦後の会社なのである。(About Us | Dunkin'® 参照。)
 しかし、戦前の小説にも、このステレオタイプが描かれているので、ダンキンドーナツのサービスを由来とする上の引用箇所については、完全にガセだといえる。


 以下は、ダシール・ハメットの短編小説からの引用である。

 彼はすっぱい口つきをしてみせた。「(中略)警官としてのおれの仕事は、やつらの仕事と同じくらい頭もいるし、やつらと同じぐらいタフで、やつらと同じぐらい危険をおかさなくちゃならない。それなのにやつらはでっかい金をものにし、おれときたらコーヒーとドーナツのためにあくせくしているのはどういうわけだと考えるようになった。そういう種類のことは、えてして頭にくるものでね。とにかく、おれは頭にきちまった。」


 ダシール・ハメット『両雄ならび立たず』(田中融二訳)
 ※強調部引用者。

 ネタばらしを避けるため、あまり詳しいことは書けないのだが、1930年前後に書かれたと思われる小説の中で、すでに警官とドーナツの関係がステレオタイプとして、警官自身によって語られている場面である。(もちろん、この小説が由来だというわけではないのだが。)
 営業時間が長いドーナツ・ショップが警察官に愛用されたのは確かだろう。加えて、これは推測だが、禁酒法時代を背景に、ウイスキー=ギャング、コーヒー&ドーナツ=警察官といったような連想があったのではないかと思う。ただし、ハメットの作品に登場する警察官は、悪者が多い。というか、そこが面白い。