「宗教は阿片である」について孫引き引用してみる
初期の著作『ヘーゲル法哲学批判序論』に「宗教は、逆境に悩める者のため息であり(中略)、それは民衆の阿片である。」とあるが、この文章は、ドイツの詩人でマルクスの親友でもあるハインリッヒ・ハイネの1840年の著作『Ludwig Borne iv(ルートヴィヒ・ベルネ)』中の「宗教は救いのない、苦しむ人々のための、精神的な阿片である」から引用したものと思われる。
カール・マルクスの『ヘーゲル法哲学批判序説』に、
「宗教は逆境に悩める者の嘆息であり、また、それが魂なき状態の心情であると等しく、無情の世界の感情である。つまり、それは民衆のアヘンである」
とあるが、この比喩は詩人ノヴァーリスの断片集「花粉 (Blüthenstaub)」(1798年)中の
「いわゆる宗教は阿片のような働きをするだけだ。つまり興奮させ、麻痺させ、弱さに由来する苦しみを和らげる。」
に基づく。
単純に比較すると、ハイネよりもノヴァーリスのほうが古いわけだが、ではハイネはノヴァーリスを引用したのか? となると、当該著作を読んでもおそらく分からないのではないだろうか。また、そもそもこのような隠喩表現に原典などあるのかどうか。
というわけで、本エントリは孫引き引用を用いた悪い例である。もちろん、原典は読んでいない。