稲見一良 『猟犬探偵』

稲見一良 - Wikipedia
 稲見一良(1931-1994)は1980年代なかばに肝臓癌に冒されてから、小説を書き始めた作家である。(それ以前は放送作家だったらしいのだが詳細不明。)彼は89年に本を出版してから94年に没するまでの短い期間に、わずか数冊の作品集を遺しただけだが、『ダック・コール』、『セントメリーのリボン』 といった作品を読んで、僕は感動し、涙した。

猟犬探偵 (光文社文庫)

猟犬探偵 (光文社文庫)

 『猟犬探偵』 は1994年、作者の死後に出版された。猟犬探偵・竜門卓を主人公とする連作短編集で、『セントメリーのリボン』 収録の表題作の続編をシリーズ化したものである。
 以前読んだ2冊に感動したので、十分期待しながら読み始めたのだけれど、正直、それほど感動できなかった。稲見の作風は、ハードボイルドとファンタジーという両極端に位置するものをミックスさせたところに特徴があるのだが、本書収録の一連の作品はどちらの要素も薄くなっているようなのだ。ハードボイルド小説の主人公が人情噺を始めてしまったような違和感があり、まことに残念である。
 今度は 『ダック・コール』(ハヤカワ文庫)を読み返すことにしよう。