第4講 樋口一葉『たけくらべ』(3)

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 本日は当初の予定を変更して、『たけくらべ』 の続き。

講義ノート

 講義の最中にとったノートをほぼそのまま写したものなので、文責はすべて kanimaster にあります。

  • 十二章について
    • 雨の日、信如の鼻緒が切れる場面。
      • 傘が進歩しない理由について。
      • 夜間無灯火自転車の危険について。
    • 《寮》について
    • 美登利の恋
      • 昔の小説では、恋をするのは美男美女だけだった。
      • 美男美女に限らず誰もが恋をする話を書いたのは、石坂洋二郎。『青い山脈』の映画は美男美女ばかり登場するが、あんなのは現実にはあり得ない。
  • 十三章について
    • 長吉は「郭内(なか)よりの帰り」と書かれている。十五六で吉原に通っていたことになるが、昔はそういうことがあったのだろう。
    • ×厄病神 ○疫病神
  • 十四章について
    • 酉の市
    • 「髪をかういふ風にこんな嶋田に結つて」……島田は大人の髪型。それまでは桃割だった。
    • 美登利の変貌が描かれているが、「彼方(こなた)は正太さんかとて走り寄り」とあるので、それほど嫌ではなかったのだろう。
  • 十五章について
    • 昔は娼婦を買いに行っても、「振る」ことがあった。ただし、高級娼婦に限る。
    • モテる/モテない、振る/振られるは、元々、廓の中の言葉だった。「昨夜はモテたよ」というのは、娼婦にモテた、という意味。
  • 十六章について
    • たけくらべ』は明治28〜29年、馬場孤蝶島崎藤村等が主宰する女学生向けの同人雑誌 『文學界』に連載された。
    • その後、明治29年、『文藝倶楽部』というメジャーな雑誌に一挙掲載され、幸田露伴等に褒められた。
    • 三人冗語……幸田露伴森鷗外斎藤緑雨(『油地獄』を書いた)。
    • 斎藤緑雨は一葉に恋心を抱いていたと思われる。
    • 3人とも旧時代の人と思われているが、一葉とそんなに年が離れているわけではない。鷗外でさえ当時30代であり、一葉とは十歳違い。
  • 初潮説と初店説
    • 美登利の変貌については、初潮説と初店説がある。
    • 1985年に佐多稲子が初店説を唱えた。「初潮くらいで、こんなに変わるはずがない」
    • しかし、当時、初潮説が定説であったのか疑問。
    • 初潮説の提唱者……塩田良平、和田芳恵(♂)、長谷川時雨(♀。三上於兎吉の妻。初潮説を最初に唱えた人)、前田愛(♂。立教大学教授。初潮に合わせて、「これから娼婦になるんだよ」と言い聞かせられた、という説)
    • 初店説の提唱者……瀬戸内晴美前田愛と対談を行った。)
    • 幸田露伴は「赤飯のふるまひもありしなるべし」と書いたが、めでたい初店のときも赤飯を炊いただろう。水上勉 『五番町夕霧楼』 に初店のことが書かれている。
    • お披露目の意味のある初店と水揚げは厳密には違うのだが、現在は「初店・水揚げ説」となっている。
  • 検査場説
    • 上杉省和(よしかず)、近藤典彦
    • 美登利は14歳だった。検査は16歳以上に課せられていたのだから、検査場説は成り立たないという反論。
    • しかし、廓の中で法律を守ってやっていたとも思えない。
    • そもそも、一葉はそこまで詳しく法制度を知って書いたわけではないだろう。
  • 小谷野説
    • 初めて客をとったときに処女だと困るので、水揚げの前に張り型を使って貫通させていたのではないか。
  • 「風呂場に加減見る母親」
    • 初潮だったら風呂をわかさないのではないか。
    • いや、父母が入ったのだろう、という反論。
    • 一家のヒロインが入らないのに、風呂をわかすわけがない、という反論。
  • 一葉は処女だったのか
    • 処女だったかどうかが注目されるのは、一葉が若く死んだから。漱石が童貞かどうかなど興味を惹かれないが、滝廉太郎が童貞だったかどうかは惹かれるかもしれない。
    • 瀬戸内晴美和田芳恵は非処女説。
    • にごりえ』の主人公お力の内面描写からは、性体験がうかがわれない。よって処女説。
    • 結論:わからない。
    • 漱石 『こころ』 で、Kの自殺理由について、奥さんが全く気づいていないのは作者のミス。

次回

  • 三四郎
  • 《季節》 に注意して読むこと。