2009-04-01から1ヶ月間の記事一覧

樋口一葉 『ゆく雲』

……手跡によりて人の顏つきを思ひやるは、名を聞いて人の善惡を判斷するやうなもの、當代の能書に業平さまならぬもおはしますぞかし、されども心用ひ一つにて惡筆なりとも見よげのしたゝめ方はあるべきと、達者めかして筋もなき走り書きに人よみがたき文字な…

樋口一葉 『われから』

親子二代にわたる夫婦の愛憎劇という設定は、『嵐が丘』 を思わせる。本作の執筆当時(明治29年)、『嵐が丘』 の翻訳が出版されていたかどうか定かではないが、おそらく作者はかの英国文学の粗筋くらいは聞き及んでいたのではないだろうか。 それにしても、…

『谷崎潤一郎随筆集』

以前、古書店で太宰治 『晩年』(終戦後の復刻本)を購入したときに、同時に買った本。そのとき、店の親爺が2冊を1冊分の値段で売ってくれたので、この本は実質タダである。 内容は、最初期のものから最晩年のものまで寄せ集めた随筆のアンソロジーで、『陰…

谷崎潤一郎 『猫と庄造と二人のおんな』

ダメ人間を書かせたら天下一品の谷崎作品。(昭和11年発表。) 三角関係の話なのに、主要な登場人物全員がダメで、ひたすら猫に翻弄されていく様は、滑稽そのものである。 猫好きにはたまらない小説。読み終わるのがもったいないので、ゆっくり読んだほうが…

谷崎潤一郎 『人魚の嘆き・魔術師』

大正6年に発表された谷崎の作品集は“大人の絵本”だった。「人魚の嘆き」 退屈な毎日を送る南京の貴公子が、地中海からやって来た(白人の)人魚に恋をする話。 難解な漢語が多いのに、すらすら読める不思議な文体が魅力である。「魔術師」 浅草六区を思わせ…

谷崎潤一郎 『小僧の夢』

大正6年に発表された短編小説。60ページちょっとの長さだが、24回にわたって新聞に連載された作品とのこと。『全集』 未収録であり、1990年に 『季刊文学』(岩波書店)誌上で紹介されたレアな小説である。 「今年十六歳になる商店の小僧」 庄太郎が主人公(…

谷崎潤一郎 『母を恋ふる記』

大正8年発表の短編小説。『小僧の夢』とは打って変わって、儚くも美しい夢物語である。 夢の中では自分が子供に戻っている、ということを我々はしばしば経験するが、そういうとき、幼い頃の記憶はすべて美化され、理想化されている。夢に出てくる母親は、若…

樋口一葉 『にごりえ』

……行かれる物なら此まゝに唐天竺の果までも行つて仕舞たい、あゝ嫌だ嫌だ嫌だ、何うしたなら人の聲も聞えない物の音もしない、靜かな、靜かな、自分の心も何もぼうつとして物思ひのない處へ行かれるであらう、つまらぬ、くだらぬ、面白くない、情ない悲しい…

樋口一葉 『十三夜』

外なるはおほゝと笑ふて、お父樣(とつさん)私で御座んすといかにも可愛き聲、や、誰れだ、誰れであつたと障子を引明けて、ほうお關か、何だな其樣な處に立つて居て、何うして又此おそくに出かけて來た、車もなし、女中も連れずか、やれ/\ま早く中へ這入…

樋口一葉 『大つごもり』

主人公・お峯は貧乏な叔父一家を救うために、主家の金を盗む。彼女の運命は? 身分制度や貧困といった深刻な問題を背景に、次第にある状況へ追い詰められていくお峯の心理と葛藤の描写が素晴らしい。しかし、最後はちょっと意外な方向へ展開し、粋な結末を迎…

太宰治 『地図 初期作品集』

id:darkglobeやid:kamioyou-taはぜひ読むべし。

堺港事件

慶応四年二月、泉州、堺港で水底の測量を行っていたフランス水兵を、土佐の兵が狙撃。暴動となった。堺港事件である。 「申し上げます。明後二十三日には堺の妙国寺で、土佐の暴動人に切腹を言い付けるそうでございます。つきましては、仏蘭西側の被害者は、…

谷崎潤一郎 『一と房の髪』

大正15年発表の短編。横浜の外国人用アパートを舞台に、関東大震災当日の出来事が語られる。 ヒロインはロシア革命後、日本に亡命した貴族の夫人・カティンカ。男たちは彼女のとりまきの混血児たちである。(語り手のディックは彼らの一人である。) 地震の…

谷崎潤一郎 『青い花』

大正11年発表の短編。主人公の男、岡田と、18歳の少女・あぐりの物語。『痴人の愛』 (大正13年発表)のプロトタイプのような小説である。主人公の内面の描写が延々と続き、かなり観念的だ。ストーリーらしきものといえば後半、横浜に洋服を買いに行くくだり…

谷崎潤一郎 『お才と巳之介』

大正4年に発表された150ページくらいの中編小説。江戸時代を舞台にした 《毒婦もの》 という点、前年に書かれた 『お艶殺し』 に通じるものがあるけれど、本作は全編ドタバタ喜劇である。 商家の次男坊・巳之介は女中・お才に恋をする。しかし、彼女はとんで…

谷崎潤一郎 『富美子の足』

大正8年に書かれた短編小説。足フェチの話である。 谷崎32歳のときの作品だが、晩年に 『瘋癲老人日記』 を書いた頃の作者を思わせる老人が登場する。 芸者上がりの妾・富美子の足の描写が延々何ページも続く。老人は最後、病気で寝たきりになり、富美子に額…

谷崎潤一郎 『The Affair of Two Watches』

明治43(1910)年に発表された谷崎最初期の短編。珍しくナンセンス・ユーモア小説である。「時計事件」 という意味の英語の題名がつけられているが、題名が英語であることにはちゃんと意味がある。 内容はほとんどわけのわからない滑稽噺だが、全体が19世紀…

谷崎潤一郎 『春琴抄』

『春琴抄』 は、昭和8年に発表された短編小説。……お師匠様私はめしいになりました。もう一生涯お顔を見ることはござりませぬと彼女の前に額ずいて云った。佐助、それはほんとうか、と春琴は一語を発し長い間黙然と沈思していた佐助は此の世に生れてから後に…

第3講 樋口一葉『たけくらべ』(2)

http://homepage2.nifty.com/akoyano/juku/top.html - 文学コース 講義ノート 講義の最中にとったノートをほぼそのまま写したものなので、文責はすべて kanimaster にあります。 二章について 長吉が語り手である。 長吉、正太郎、太郎吉、三五郎、丑、文、…

太宰治が生誕100年なんだけど

ハインラインのほうが2歳年上なんだよね。すごく不思議な気がする。

平田篤胤の遺品

慶応三年の三月は平田篤胤没後の門人らにとって記念すべき季節であった。かねて伊那の谷の方に計画のあった新しい神社も、いよいよ創立の時期を迎えたからで。その月の二十一日には社殿が完成し、一切の工事を終わったからで。荷田春満、賀茂真淵、本居宣長…

シネコンのチケット売り場で

この一言がなかなか口に出せないんだ。 「『おっぱいバレー』、大人一枚」

第2講 樋口一葉『たけくらべ』(1)

http://homepage2.nifty.com/akoyano/juku/top.html - 文学コース 講義ノート 講義の最中にとったノートをほぼそのまま写したものなので、文責はすべて kanimaster にあります。 樋口一葉の 「一葉」 は雅号。漱石、藤村、啄木、紅葉、鏡花など、雅号はすべ…

和田峠の戦

『夜明け前 第一部』 は、第九章の後半から突然様子が変わる。それまでの登場人物の視点に寄り添った描写ではなく、客観的な視点から徹底的に 《戦争》 を描きはじめるのだ。 以下の引用は、和田峠の戦の場面から。天狗党と名乗る水戸浪士による千名を超える…

世紀末本屋

元治元年、青山半蔵二回目の江戸である。すでに本陣庄屋を父から継いだ半蔵は、周辺の木曾谷の庄屋を代表する三人の一人として、江戸の道中奉行へ陳情書を携えて、江戸に向かった。 しかし、役人の仕事は遅く、訴えを起こしてから沙汰のあるまで何ヶ月も待た…

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蟹亭奇譚 (←リンク先記事削除済み)の続き。Myはてなアンテナの機能変更と開発方針について - はてなの日記 - 機能変更、お知らせなど 本日、Myはてなアンテナにて以下の機能変更を行いました。 ページ上での各エントリーの時刻表示の削除 Myはてなでのお気…

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新撰組見参

…………将軍上洛(じょうらく)の日も近いと聞く新しい年の二月には、彼は京都行きの新撰組の一隊をこの街道に迎えた。一番隊から七番隊までの列をつくった人たちが雪の道を踏んで馬籠に着いた。いずれも江戸の方で浪士の募集に応じ、尽忠報国をまっこうに振り…

島崎藤村 『夜明け前 第一部(下)』

夜明け前 (第1部 下) (新潮文庫)作者: 島崎藤村出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1954/12/28メディア: 文庫この商品を含むブログ (3件) を見る ようやく2冊目に入る。密度の濃い文章に、酩酊に似た感覚を覚える。

第1講 文学とは何か

http://homepage2.nifty.com/akoyano/juku/top.html - 文学コース 講義ノート 講義の最中にとったノートをほぼそのまま写したものなので、文責はすべて kanimaster にあります。 文学とは、明治維新以前の時期は漢文・漢詩を意味するものだった。 詩と小説。…