2008-07-01から1ヶ月間の記事一覧

志賀直哉 『剃刀』

志賀直哉 『剃刀(かみそり)』 は、明治43(1910)年に発表された短編小説。 風邪をひいて熱に浮かされた床屋の主人がだんだんと精神的に追い詰められ、最後には剃刀で客の咽を切って殺してしまうというストーリーで、今日的な言葉でカテゴライズすれば心理…

梶井基次郎 『檸檬』

いったい私はあの檸檬が好きだ。レモンエロウの絵具をチューブから搾り出して固めたようなあの単純な色も、それからあの丈の詰まった紡錘形の恰好も。 檸檬の果実を表すのに 「レモンエロウの絵具」 という語句で形容するのはいかがなものか。 梶井基次郎 (…

夏目漱石 『道草』

夏目漱石の 『道草』 は、大正4(1915)年に朝日新聞に連載された。小説としては前年の 『こころ』 の次の作品にあたり、新聞連載としては同年に掲載された随筆 『硝子戸の中』 に続くものである。 内容は漱石自身の自伝的小説といわれており、時期としては…

笑わない男 ― 芥川龍之介

完璧な小説を挙げよ。――もしもこんな風に問われたら、僕はためらわずに芥川龍之介の 『藪の中』 と答えるだろう。 『藪の中』 を初めて読んだのは学生の頃だが、そのときの衝撃は今でも記憶に残っている。完璧な構成、魅力的な語り口、不条理な結末。そのど…

ドストエフスキー 『地下室の手記』

ドストエフスキーの 『地下室の手記』 (1864年発表)が面白すぎる。 本書は 「I 地下室」、「II ぼた雪に寄せて」 の2部構成になっており、1部は主人公である40歳の 「俺」 の哲学的考察、2部は物語である。 もっとも、「I 地下室」 は冒頭の自己紹介部分以…

夏目漱石 『硝子戸の中』

『硝子戸の中(うち)』 は、大正4(1915)年1〜2月に朝日新聞に掲載された夏目漱石の随筆集である。新聞には毎日連載され、(1回の分量は文庫本で約2ページ)全39回のまとまった随筆となったものである。 本書を読んで思い起こすのは“晩年”という語である。…